虐待など様々な理由から家で暮らすことができない、義務教育を終えた15歳~20歳の子どもたちが共同生活をしながら自立を目指す「自立援助ホーム」という場所があります。
ダイバーシティ工房が運営する女子専用の自立援助ホーム「Le Port(以下ルポール)」は2020年4月にオープンし、2年が経ちました。
ルポールでホーム長として勤務する中台早希子さんは、児童養護施設や保育士としての経験を活かし、入居する子どもたちの支援にあたっています。
プロフィール
児童養護施設勤務を経て2018年ダイバーシティ工房入職。保育園「にじいろおうちえん」「そらいろおうちえん」での勤務を経て、2020年より自立援助ホーム「ルポール」での勤務を開始。2021年よりホーム長を務める。
児童養護施設へ繋がれない子どもたちを支援したい
ダイバーシティ工房へ入職する前は児童養護施設で働いていました。 児童養護施設では、子どもたちの支援に加えて保護者支援も行います。
保護者の方の話を聞く中で、子育てをする中で葛藤を抱え、どうにかしたいと思って周りに助けを求めたけれど何も状況が変わらず、結果として虐待に繋がってしまったケースが少なくないことを知りました。
保護者の方と話す中で、保護者と密接に関わりがあると感じたのが保育園の存在でした。
実際の現場で保護者支援について学んでみたい、と思ったのが、保育園で働こうと思ったきっかけです。
中でもダイバーシティ工房が運営する「にじいろおうえん」が保護者支援により力を入れていることを知り、応募を決めました。
保育園では担任も持ち、積極的に保護者支援に取り組みました。 児童相談所が介入している家庭のケースも担当し、やりがいも感じていました。
ですが児童養護施設での経験も重なり、児童相談所に繋がった子どもたちのその先に、どういった繋がりや支援が必要であるかを次第に考えるようになっていました。
そんな中、代表からダイバーシティ工房が自立援助ホームルポールを立ち上げることになった話を聞きました。 これまでの経験に加え、保護者支援と長期的に子どもたちを支援したいという自分の思いが活かせる仕事だと思い、ルポールで新たに働くことを決意しました。
大切にしているのは日々のコミュニケーション
ルポールには現在3名の高校生が入居しています。 子どもたちの生活を支えることに加え、ホームの運営管理や外部との連絡対応など職員の仕事は多岐にわたります。
自立援助ホームは、「児童相談所長からの委託措置」という形で子どもたちを受け入れるため、現在受け入れている子どもの情報共有や新たに入所を希望する子どもの問い合わせなど、毎日のように児童相談所とやり取りが行われます。 また子どもたちが通う学校からの連絡もありやり取りが必要です。学校で三者面談があれば参加するなど職員は保護者としての役割も担っています。
子どもたちは高校卒業後に独り立ちしていくために、高校生活と並行してアルバイトをしながらお金を貯めています。進学を希望している子どもとは、進学するためにはいくらお金が必要か目標を定め、毎月お金の管理について振り返りを行っています。
定期的な面談に加え、何より大切にしているのは、子どもたちとの日々のコミュニケーションです。 「自立」を目指しているとはいえ、入居しているのは高校生たち。
日々の出来事の報告や、不満や悩み事、好きなアイドルの話など、子どもたちは話したいことが山ほどあります。
ルポールにいる時はパソコンを閉じてなるべく子どもたちと話す時間を取れるよう、意識しています。
(子どもたちと一緒に料理をすることもあります)
ここは彼女たちにとっての家
立ち上げから2年が経ちますが、運営にあたっては試行錯誤の連続でした。
当初私も含め職員は「子どもたちが自立していくためにはこうした方がいい」と知らず知らずのうちに枠にはめようとしていました。
例えば「洗濯物をその日のうちに畳むルールをつくったほうがいいのでは」という意見が職員から出たことがありました。その他にも子ども達の自立を考えると教えたくなることはたくさん出てきます。
ですが大人にとって些細なことに見えても、子どもたちにとっては難易度が高い場合も。逆に子ども達からは「なんでやらなきゃいけないの?」と不満がこぼれることもあります。
ルポールの職員へは「ここは私たちにとっての職場だけれど、彼女たちにとっての家です」ということを伝えています。
ついつい色々なことを言いたくなってしまいますが、自立援助ホームに繋がる子どもたちは様々な理不尽な状況を経て、自立をしなければならない環境に置かれています。
学校とアルバイトを両立しながら自分のお金を貯めて、毎日十分すぎるくらい頑張っています。
生活をしていくうえで必要なことはたくさんありますが、こちらが勝手に子どもたちの目標を決めるのではなく、優先順位を考えながら長い目でみて接していくことが必要だと思っています。
また、子どもたち全員で話し合う場も設けるようにしています。 ルポールはあくまでも子どもたちの家。
「こういう意見が出ているけれどどうか」「あなたたちはどうしていきたいか」と意見を交わしながら、子どもたち自身でルールを決めていくことが大切だと感じています。
笑って子育てできる環境をつくりたい
複雑な背景を抱える思春期の子ども達が住む場所ということもあり、職員たちも抱え込みすぎてしまうこともあります。
だからこそ、ため込みすぎず何かあったときは共有できる環境づくりが大事だと思っています。
子どもたち自身も、大人のちょっとした変化にも敏感です。 嫌なことがあって職員にあたってしまい、気まずい思いから門限ぎりぎりに帰る子どももいました。
子どもたちの声に耳を傾けながらも、抱え込みすぎず、どんなときでも笑顔で子どもたちに接することが必要だと感じています。
私自身2児の母ですが、子育てはやっぱり笑ってできる方がいい。
支援の経験はない方でも、笑って一緒に「子育て」できる環境を一緒につくっていけたらと思っています。
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